2011年から2016年にかけて
「ロボットは東大に入れるか」、
通称東ロボくんプロジェクトというものがありました。
国立情報学研究所の新井紀子さんが牽引し、
ロボットが東大に合格することは叶わずも、
2015年の進研模試で偏差値57.8を出すところまで行きました。
因みに東大模試の数学では、偏差値76.2という結果を叩き出しています。
ちなみに新井紀子さんは、
2018年に『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』という本を上梓し、
書店でも平積みされているのを目にした方もいるのではないでしょうか。
新井さんは
東ロボくんプロジェクトを通して
現在の子どもたちの課題が見えてきたと言います。
新井さんたちは、
リーディングスキルテスト(RST)というテストを開発し、
その調査を進めていく中で
約3割の生徒が教科書を読めない状態で
中学校を卒業していくことがわかったというのです。
なかなかに衝撃的な事実ですが、
更に衝撃的なのは、調査を社会人にまで拡大すると、
大人でも新聞やマニュアル程度の文章が正確に読めない人が
世界的に増えてきているという結果まであるということです。
実際に、2015年に行われたRST予備調査の問題を見てみましょう。
以下はいずれも、教科書から抜粋された文章です。
実際に解いてみて下さい。
本文
仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている。
出典:東京書籍㈱ 中学校社会教科書『新しい社会 地理』 p.36
問題
オセアニアに広がっているのは( )である。
A ヒンドゥー教
B キリスト教
C イスラム教
D 仏教
本文
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
出典:東京書籍(株) 高校生物基礎教科書『新編・生物基礎』 p.19
問題
セルロースは( )と形が違う。
A デンプン
B アミラーゼ
C グルコース
D 酵素
いかがだったでしょうか?
正解は追々書くことにいたしまして、
まずは、子どもたちの正答率を見てみましょう。
社会の問題は、
公立中学校の正答率は53%です。
誤答が47%いるということになります。
続いて理科の問題は、
中学校の正答率は14%、
つまり誤答が86%もいるという割合です。
理科の本文は高校の教科書からの引用ではありますが、
正しく読み取ることができれば答えは出せます。
更に言えば、中学校を卒業した後、
その教科書を使って新しい知識や考え方を身に着けなければならないので、
中学生だから誤答でもいいということにはなりません。
さて、解答に移りましょう。
社会の解答は「B」です。
理科の解答は「A」です。
社会では、文頭が「仏教は」で始まっていたせいか、
仏教と答えた生徒が35%もいました。
この問題を解くには、
「仏教は東南アジア、東アジアに、」という塊と
「キリスト教は〜」「イスラム教は〜」とそれぞれ3つの塊(主語)が並立して、
文末にかかっているという構成を見抜く必要があります。
理科では、
「B アミラーゼ」が35%、
「C グルコース」が45%という結果に。
Bを選んだ人は、
文末の「形が違うセルロースは分解できない。」
という塊の主語がアミラーゼなのでBを選んだのだと思います。
また、
Cを選んだ人は、
直前にグルコースの話が出てきていたので、
グルコースと選んだのではないかと思います。
では、解く際にはどのように考えればよかったのでしょうか。
まず、文意をとるために、修飾語句をいくらか取り除いてみます。
すると以下のような文になります。
「アミラーゼ(という酵素)は、デンプンを分解するが、セルロースは分解できない」
この文に、問題を解くために必要な
「形が違う」という修飾語句を補ってみましょう。
「アミラーゼ(という酵素)は、デンプンを分解するが、形が違うセルロースは分解できない」
修飾語句を取り払ってみると、
セルロースと形が違うのがデンプンだということが
分かりやすく読み取ることができたのではないでしょうか?
学校の勉強は、
テストが紙や電子画面上で行われる以上、
文章の読解が必須の力となります。
読解力が新井さんたちの調査によって目に見える数字として出てきたことは、
非常に大きな意味を持っていると思います。
しかし、
新井さんも仰っていますが、
子どもたちの読解力が低いのは
「スマホばかりいじっているから」とか
「ゲームばかりしているから」とか
分かりやすく指標が出ているわけではないのです。
ですから、
読解力の低い原因は
はっきりとは分かっていません。
もし、一つだけ言えることがあるとすれば、
「読解力を育む場面がなかった」ということです。
家庭にも、学校にも、です。
これを受け、どのように子どもたちの読解力を上げていくのか、
答えを誰も知らない中を手探りで進んでいく必要があるのです。
それは、皆、一様に。
そんな中で、新井紀子さんの取り組みは特筆すべきものであるのです。
ぜひ、彼女の言葉に耳を傾けてみて下さい。