これらの「山」と「遊」という字を見て、
どのような感想を持たれるでしょうか?
「フォントが違うだけでしょ」とお思いかもしれません。
しかし、今教育現場では、この書体に変化が起きようとしています。
画像の右側のフォントは「UDデジタル教科書体」というものです。
これは、10年の歳月をかけて開発され、
子どもたちの教育のために生み出された書体なのです。
どうして教育のために書体にそんなにこだわる必要があるのでしょうか?
例えば、真ん中のフォントをゴシック体と言いますが、
「山」の二画目を見ると、わたしたちが習った形とは違っています。
これは見た目のデザインを重視しているため、
左右対象に形を変えているのです。
すると、漢字を学んだばかりの子どもたちは、
ゴシック体を見たときに混乱することになります。
「UDデジタル教科書体」の良い点の1つは、
学習指導要領に沿ってフォントがデザインされていることにあります。
「遊」の「之繞(しんにょう)」についても同じことが言えます。
次に左側のフォントを見てみましょう。
これは従来の教科書体です。
さきほどのゴシック体のように形が大きく崩れていることはありません。
一見問題はないように思えますが、それでも難点があります。
それは、教科書体が筆で書いた字に近いことに由来しています。
筆の筆跡を模しているので、線の太さにばらつきがあります。
力を入れるところは太く、力を抜くところは細くなります。
それが見にくさを生んでいるようなのです。
ゴシック体に習った太さの強弱を抑えた線、
教科書体の学習指導要領に沿った書き方、
これら二つの良い点を組み合わせて開発されたフォントが
「UDデジタル教科書体」なのです。
実は、このフォントは、
ロービジョン(弱視)、ディスレクシア(読み書き障害)に配慮したデザインなのです。
日本のインクルーシブ教育の発展の礎石となる出来事だと言えます。
そういう志の元に作られたので、
このフォントの名前についている「UD」が
「ユニバーサル・デザイン」を意味しているのも頷けます。
このフォントの開発を受けて、
今年の奈良県の公立高校入試(平成31年度入試)で
UDフォントが採用されたとニュースになったり(2019.3.14 イッポウ(TBS))、
2017年のWindows10のアップデートでは、
UDデジタル教科書体の採用が発表されたりと、
その波紋を広げています。
文章の読解を生徒たちに教える上で、
読みやすさというのはとても大切です。
同じ日本語でも、くずし字のような草書で教科書が書かれているとしたら、
まずはくずし字を読めるようになるところから訓練しなければならず、
内容の読解に割くエネルギーがその分少なくなります。
人間が文字を読むという行為は、
実はそれだけで大変複雑な脳の使い方をしていることが知られています。
(メアリアン・ウルフ(2008)『プルーストとイカ』、インターシフト)
その複雑な脳の使い方を習得する助けに、
このUDデジタル教科書体がなるのなら、
積極的に取り入れていくことが望ましいと考えます。
学び安でも、ところどころで、
このフォントを採用していきたいと思います。